レーナとアーニャ
よく目を凝らさないと自分でも見分けがつかないが、ロシア人の友人の幼い頃の写真に混じって、私の父が撮った幼い頃の写真がモスクワの知人、レーナのアパートの壁に貼られている。上の写真の赤丸の写真だ。
レーナも例のМАРХИ(モスクワ建築アカデミー)の卒業生で壁に貼られている写真のほとんどが恐らく同期の仲間、あるいは幼なじみである。面白いのは電話の受話器を握っている子供の写真が多いことだ。この壁のコレクションが一目で気に入ったので、日本から持ってきた自分の小さな頃の写真を仲間に加えてもらった。残念ながら、受話器を握りしめた写真はなかったが、まあそれは仕方がない。
ところで、このレーナの存在は初めて会った時から少し謎だった。モスクワでは友人を一人作れば、その一人から数珠つなぎのように次から次へと友人のそのまた友人、という具合に知り合う人が増える。ロシア人にとっては私は多くのロシア人の中のほぼ唯一の日本人であるため問題ないのだが、こちらとしてはナターシャが三人、イヴァンが二人、ユーリャにユーラ、イリヤにアリョーシャ、アーニャにターニャと似たような名前が多く、全員を把握するのは到底無理難題である。レーナには友人の友人くらいの比較的早い段階で知り合ったのだが、とにかくインパクトが強かった。
彼女は目が悪いのか、ロシアで未だに見かける典型的な形をしたレンズの大きな眼鏡をかけていて、眼鏡越しの視線が鋭かった。向かい合って座っているとじーっとこちらに向かって視線を投げかけてくる。しかもとても人懐っこい。大抵のロシア人はドイツ人に比べて初対面から何倍も人懐っこいのだが、彼女の場合、他人への壁がほとんど取り払われているような感じである。そんな彼女と娘のアーニャと三人でアートの展覧会を見に行く機会が何度かあった。
ロシアに通いだした当時はほとんどロシア語が理解できなかったし、元来余りそれほど知らない他人に根掘り葉掘り質問をする方でもないので、アーニャの父親が誰なのかとか、彼女が現在何をしているのかといったことも知らなかったし、知らなくてもそれはそれで全く困る事はなかった。
ただ、一つ困ったことは彼女がかなり頻繁に私にお酒をねだることだった。始めは全く気付かずに、「ハラショー、ピバね。(オーケー、ビールね)。」と気軽に受け答えしていたものの、ある時、お酒のかなり入った状態の彼女に出くわした。ロシア語で延々と自分の悩みを打ち明けているらしいのだが、私にその全てが理解できるはずもない。まさにドフトエフスキーの小説に出て来るような感情的な自己告白に付き合わされる羽目になった。
そして時間が経つうちに、今度は彼女の飲酒量が気になり始めた。彼女にお酒をねだられても断る様になった。そして、断ると彼女は結構本気で怒るようになった。
何年か後に、風の便りで彼女が極めて深刻なアルコール中毒になったと耳にした。
飲酒過多はロシアの深刻な社会問題のひとつであるというが、それもロシア人の「ほどほど」とか「適度」とかいう中庸の感覚とは無縁な民族性にあるように思う。日常の端々でこちらが羨ましくなるくらいドラマチックな彼らを目にすることがよくある。話術にも優れているし、人情にも厚い。恋愛沙汰になると熱くなり過ぎる傾向にあるが、それに比例してなのか子供のいる若いカップルの数も多い。しかも、母親違いの子供が二人いると聞いていたのが、実は三人目がいるんだ、とかいうことも聞かされたりする。そんなドラマチックな大人に囲まれた子供たちはとても逞しく想像力が豊かである。彼らのきらきらした目を見ていると、何だか子供の可能性というものを信じたくもなる。
今頃、大きく成長しているはずのアーニャに会ってみたいものだ。後で彼女の父親があのアリョーシャだと聞いて少し驚きもした。
旅行者でもなく、移住者でもない、自分の輪郭がぼんやりしているような浮遊感の漂う感覚でモスクワに行くことはもうないだろうが、今の状態で改めて彼らに再会してみたい気がする。
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by zaichik49
| 2008-07-02 06:23
| モスクワ
ベルリン在住、ベルリナーによるモスクワ体験記も一段落。今後も気になるロシアや現在のベルリン生活の中で想うことをつらつら書いていこうと思います。
by zaichik49
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2009年9月29日に長女を出産しました。タグの「妊娠」にて妊娠覚え書きをまとめてみましたので、また覗いて見てください。
チェブラーシカなロシア?
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