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ロシアの大地とВий


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先日、机の脇に重ねてあった書類の山を探っていると、2004年6月にプリントアウトしていた紙が出て来た。

それはニコライ・ゴーゴリの「Вий(=Vij/ヴィイ)」が気になって調べたものだった。
きっかけはいつものように友人の一言。
「『ヴィイ』は最高のホラームービーだよ!」と教えてくれたのは、ベルリンに住んでいるリトアニアの友人ダリウスだった。彼は映像や音にとても敏感なタイプで、会う度に気になっている映像や音について色々教えてくれた。そしてそのお薦めのホラー映画とやらをオリジナル版で見せてもらったのだ。何となくあらすじは掴めたものの、分からない部分もあったためもっと色々知りたくなったわけだ。

百聞は一見にしかず、ということでまずは映画のクライマックスとも言えるこちらのリンクをご覧あれ。

ロシア語が分からなくても映像だけで十分怖い、というより笑えるのではないかと思う。
嗅ぎタバコのくしゃみでパチっと目を見開く美女の死体やその彼女が棺桶に乗ってグルグル飛び回るところ、カタカタ歯を鳴らして笑う骸骨などなど何ともユーモラスで味がある。

実は初めてこの映画を見た時には肝心のВий(=Vij/ヴィイ)が何を指すのか良く分からなかった。ダリウス曰く、この映画はソビエト時代に「鼻」や「外套」などで知られるゴーゴリの原作「ヴィイ」をベースに作られたというので、映画を見せてもらった後に早速調べてみた。

引用も含め、以下にざっとあらすじを書いてみよう。

舞台は小ロシア(=ウクライナ)。ホマーという神学生は夏休みの帰省の途上、老婆の魔女に襲われるが、悪魔祓いの呪文でこれを撃退。逆に散々に老婆を打ち据えると、いつの間にか老婆は美女にその姿を変えていた。
息も絶え絶えの美女を後に彼は学校に一目散で逃げ帰ったが、ある金持ちに呼ばれ、死んだ娘に三晩の祈祷を依頼される。何とその娘はホマーが先日打ち据えた魔女であった。
最初の晩にホマーが祈りを捧げていると、死んだはずの娘が起き上がり、彼に向かって来た。
ホマーが自分の周りにチョークで円を書き、悪魔祓いの呪文を唱えると、死体は円の内側を見ることも、その中に入ることも出来ない。初日の晩は何とか切り抜ける。次の晩に魔女は仲間の魔物を呼んだが、同じようにしてやり過ごす。三日目の晩には魔女と多くの魔物たちがホマーの描いた円の周りに集まってくるが、彼を見つけることが出来ない。

「ヴィイを連れて来い!ヴィイを迎えに行け!」死人の声が響き渡った。(中略)間もなく重い足音が聞こえてきて、教会中に響き渡った。ちらと横目で見ると、なにやらずんぐりとして、頑丈な、足が内側に曲がった人間が連れて来られるところだった。全身真っ黒な土にまみれている。筋張った、頑丈な木の根さながらの、土のこびりついた手足が目についた。絶えずつまずきながら、重い足取りで歩んでくる。ながあーい瞼が地面まで伸びていた。その顔が鉄であることに気づいて、ホマーはぎょっとした。化物は両脇を抱えて連れてこられ、ホマーの立っている場所のすぐ真ん前に立った。
「おれの瞼をあげてくれ。見えない!」とヴィイが地下に籠るような声で言った。魔物どもが一斉に駆け寄って、瞼をあげようとした。《見るんじゃない!》——となにやら内心の声が哲学級生にささやいた。が、我慢できなくなって、見た。
「ここにいる!」とヴィイが叫んで、鉄の指をホマーに向けた。そこにいた限りの魔物がホマーに飛びかかった。彼は息絶えてどうと床に倒れ、恐怖のあまり魂は即座に身体から抜け出してしまった。

ゴーゴリ「ヴィイ」小平武訳より


なんとこのヴィイ、ブイイとして水木しげるの「鬼太郎」第98話にも登場しているらしい。こちらも機会があれば見てみたいものである。

革命前のロシアには至るところに精霊、あるいは妖精、妖怪が住んでいたらしい。家に住みつく霊『ドモヴォーイ』をはじめ、精霊に関する寓話として『水の精ヴォジャノーイ』、『森の精レーシー』、『水と森の精ルサールカ』なども存在した。ロシアの森はそういった意味でも日本の森と少しばかり似た空気を持っているような気がする。何かが住んでいるような鬱蒼とした感じとでも言おうか。これがドイツの森では不思議とほとんど感じないのである。几帳面なドイツ人らしく、森にまで手が隅々まで加えられ整然としているため妖精や妖怪の居場所が無さげ、とでも言おうか。少し話が脱線したが、至るところに精霊の類いが住んでいるような土壌からヴィイが生まれたとしても何ら不思議ではない。

このヴィイ、妖怪ではあるがどちらかというと「賢者」的地位を持たされているようである。
見えない目で見るというか、他の者には見えないものを見通す力がある、という点で。

このヴィイ、興味のある方はこちらのリンクも是非ご覧いただきたい。

ヴィイ 001
ヴィイ 002
ヴィイ 003

ちなみに邦題は「妖婆 死棺の呪い」あるいは「魔女伝説ヴィー」。
死棺の呪いとはこれまた大した訳である・・・

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DVDも出ているようなので是非・笑

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by zaichik49 | 2009-01-09 05:33 | カルチャー

ノスタルジア


ロシアの巨匠タルコフスキーの作品に「ノスタルジア」という映画がある。この作品の中では、ロシア人の精神性である「故郷への希求」、所謂「ノスタルジア」が映像として具現化されており、その想いの深さに愕然とさせられる。
この「ノスタルジア」を考えるとき、知人のロシア人を大きく二つのグループに分けることが出来るような気がする。

まず、自分の国に何らかの理由で愛想を尽かし、他所の国で暮らしている比較的要領の良いロシア人たちだ。ベルリンで知り合うロシア人にはやはりこのタイプが多い。

次に、ロシアを離れて他所の土地に同化する事がどうしても出来ない典型的なロシア人。モスクワの友人たちの多くがこちらに当てはまる。

タルコフスキーが「ノスタルジア」の中で描いているのは勿論、後の典型的ロシア人である。この映画はタルコフスキーが初めてソ連国外で撮影した作品でもあり、彼自身がイタリアで心の底から感じたであろう祖国への想いが込められている。

自伝の中でタルコフスキーはこう述べている。
「私はこの映画の中で我々の国民性とも言える精神状態、
我々が故郷から遠く離れた際に生じるロシア的なノスタルジアについて述べたかったのだ。ロシア人の運命的な国民性の根本、その過去と文化、故郷の地、友人や親戚について、そして一生涯そこから抜け出る事のできないそれらとの深い結びつきについて語りたかった。ロシア人は西側の人間が言うところの「良くない移民」なのだ。どうすれば「ノスタルジア」の撮影中に映画の中で一貫して存在するこのようなずしりと重く逃げ道のない悲しみに自分がいずれ陥る事になるなどと予想できたであろう?」

彼自身がいずれ身を持って、死に至る病いに近いとさえ言える
ロシア的「ノスタルジア」を経験することになるのである。

この彼ら特有のノスタルジア、自国に対する深い愛情、想いは不思議な事に伝染するほど強いようだ。と言うのも、ここ数年モスクワに足を運んでいないものの、たまにとても深いところで傷が疼くような感覚に襲われることがあるためだ。ベルリンで知り合ったモスクヴィッチにも「自分のルーツを忘れてはいけない。日本人としての自分を見失うな。」と言われたことがある。一概には言えないが、彼らの国に対する想いは日本人のそれとは比べ物にならないほど強い。

ロシアの森について触れた時にも書いたが、ロシアの大地には人を引きつけて止まない何やら得体の知れない力が存在する気がしてならない。

映画に話を戻そう。
イタリアのトスカーナ地方、朝霧がけむる幻想的な風景のなかに男と女が到着するシーンから映画は幕を開ける。
男はモスクワから来た詩人アンドレイ・ゴルチャコフ。女は通訳のエウジェニア。
ふたりは、18世紀にイタリアを放浪し、故国に帰れば奴隷になると知りつつ帰国して自殺したロシアの音楽家パヴェル・サスノフスキーの足跡を追って旅をつづけてきたが、旅もすでに終りに近づいていた。

ここで実在の作曲家がモチーフとして起用されているのも偶然ではないのだろう。
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アルセニイ・タルコフスキーの詩集をエウジェニアがイタリア語で読んでいる場面がある。それを見た詩人がこう言う。
「詩は翻択できるものではない、すべての芸術も。」
どうすれば私達は理解しあえるのと問う彼女に、アンドレイは事もなげに答える。「国境をなくせばいい」と。

自分にとって一番身近にいる人物とも自分の苦しみを分かち合えないほど不器用な男が描かれている。この詩人の台詞は心にずしりと重かった。

このロシア人特有のノスタルジア、そしてその疎外性と親近感。
私の中で恐らく一生かかっても解けない謎である。

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by zaichik49 | 2008-02-29 22:40 | ロシア


ベルリン在住、ベルリナーによるモスクワ体験記も一段落。今後も気になるロシアや現在のベルリン生活の中で想うことをつらつら書いていこうと思います。


by zaichik49

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2009年9月29日に長女を出産しました。タグの「妊娠」にて妊娠覚え書きをまとめてみましたので、また覗いて見てください。

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